社会保障に生きる!
私は「福祉」は、社会全体を支える土台だと考えます。老いた親や子どもたちが安心して暮らしていけるからこそ、仕事に打ち込めるという人は多いはずです。
これまでは介護も子育ても家族で担うことができました。農林水産業や自営業が多数であったころは、多世代で暮らし、隣近所の支え合いもしっかりしていたからです。ところが、今は雇用労働をしている人が圧倒的に多くなり、専業主婦よりも共働き世帯の方が多くなりました。介護も障害者のケアも子育ても、家族だけでは担えなくなったわけです。そこで、平成12年(2000年)に介護保険をつくりました。40歳以上の国民から広く浅く保険料を集め、家族に代わる介護サービスを飛躍的に増やしてきました。当初の給付費は総額3.6兆円でしたが、昨年度は10.8兆円になりました。障害者自立支援法は平成18年(2006年)に始まりましたが、予算はこの10年余でやはり3倍近くに増えています。
児童や高齢者、障害者の虐待防止法、障害者差別解消法などの権利擁護についても整備をしてきました。どんなに年を取っても障害が重くても、安心して暮らしていける社会にしなくてはならないからです。
少子化対策にはさらに力を入れて取り組む必要があります。これからの日本は現役世代の人口が減り続け、高齢化はさらに進んでいきます。そのために、福祉の財源をしっかり確保し、福祉の現場で働く人を増やしていかねばなりません。
親の介護のために仕事を辞める人は年間10万人に上ると言われています。福祉がしっかりしなければ、企業にとってもダメージとなり経済の足を引っ張ることにもなります。
一方、公的な福祉サービスを増やし続けても、家族が担ってきたものの中には代替できないものがあります。孤立や疎外感というものです。都市部を中心に独居のお年寄りは増え続けています。周囲から孤立した中で虐待が起こり、依存症やうつ病などの精神疾患が増えています。日本の自殺率は依然として高く、先進国の中では唯一ワースト10に入っています。そのため、家族や地域社会の絆を再構築していかねばなりません。お年寄りや障害者も福祉サービスを受けるだけの存在ではなく、できる範囲で働いたり地域社会に参加したりして、役割や生きがいを持つことが大切です。
地方では人口減少にともなって、空き家や空き店舗、休耕田が増え続けています。それを障害者の支援をしている事業所が再利用して街を活性化する現象が各地で見られるようになりました。この10年余、障害者福祉の予算は毎年2ケタの伸びを続けており、20代〜30代の若者たちが新たにNPOや社会福祉法人を作ってユニークな事業を展開していることと重なります。
日本は素晴らしい国です。南北3000キロに及ぶ国土は多様性にあふれ、それぞれの地域が独自の特産品や伝統技術を生かした地場産業を持っています。歴史的な建造物や伝統芸能や文化もあります。考えてみれば、何もかも東京に集中するようになったのは、この数十年のことです。江戸時代には300以上の諸侯がそれぞれの領地で風土に合った産業や文化を大事に育ててきたのです。それが今も各地に残っており、障害者や高齢者や彼らを支援する人々が継承する姿が見られるようになりました。福祉が新たに担うようになった役割がそこにあります。
困っている人、弱い人を守るやさしさが社会全体を支え、自己責任を求める社会から、「助けてほしい」とお互いに言い合える社会にしていくことが、この国の未来を創ることにつながると私は信じています。